[仮公開版]ただいま。 第一部

プロローグ(仮)

「最近は元気?」
笑顔で聞いてくる友達。

「うん、めちゃくちゃ元気」
俺はそう答えた。

最近は専らこんなやり取りが続いている。
しかし思い返してみると本当にいろいろなことがあった。

部屋が少し騒がしい。

俺はカバンから古い本を取り出した。
その手でページをめくり始めた。

1A章 ある雨の日の話(小説①)

これは、ある雨の日の話。

さっき降り始めた雨が段々と強くなってきた。
駅に向かう足は早くなる。

一つの傘では二人の肩を入れるので精一杯だった。

屋根のある駅に着いた。

コンビニの入店音を聞いて、レジでコーヒーを2つ注文した。

彼女が砂糖とミルクを入れる様子を見ていた。

コーヒーを持って、駅にあるベンチに腰掛けた。

「私、留学しようと思っているの」
彼女はそう言った。

「・・・帰ってくるの?」

「分からない。一年くらいかな。」
彼女はそう言って、持っていたカップに視線を落とした。

「そうそう。これ。」
そう言って彼女はカバンから袋を取り出した。
ケーキ屋さんで貰うような紙の入れ物に入っている。

「これは?」

「お菓子の家だよ。そろそろバレンタインデーだもんね」
そう言って笑った表情には疲れた跡があった。

家に着いてから、きれいに包装されたお菓子の家を開けた。

その日はお菓子の家の窓だけを食べた。
あまり味がしなかった。

ーーーーー
改札の音が鳴り止まない。

通る一人一人の顔を見る。
忙しそうな人、子連れの家族、小さい子供。

そして、見知った顔を見つけた。

「何か食べようか」
そう言って俺はコンビニに入った。

目についた肉まんを2つ買って店を出た。

「ありがとう」
そう言って彼女は肉まんを受け取った。

噴水の見える公園の椅子に座った。
肌寒く、手は小刻みに震えていた。

噴水のほうを見ながら言った。
「向こうでもいい人を見つけてよ」

彼女も噴水のほうを見ながら頷いた。

家に帰り、扉の鍵を閉めた。

いつも通りの部屋には、あの時のお菓子の家がまだ半分くらい残っていた。

これは、ある雨の日の話。

「私、留学しようと思っているの」

彼女からそう告げられた。
その瞬間、雨の音が聞こえなくなった。

「帰ってくるの?」
声にならないような、弱い口調だった。

「分からない。一年くらいかな。」
彼女はそう言って視線を逸した。

ああ、もう帰ってこないんだな、と。

駅の改札前、雨の音が強く感じた。

その日はバレンタインデーだった。
帰り際に渡されたのは手作りの大きなお菓子の家。

お菓子の家は、家でゆっくり食べた。
チョコレートなのに、味がしなかった。

なくなってしまった

朝起きて、仕事に行って、帰って寝る毎日。
「何の為に働いてるんだっけな」
部屋で一人、そう呟いた。

それから暫くして、彼女とビデオ通話をした。

画面越しに見る彼女は、どこか楽しそうだった。
俺の知らない人、俺の知らない場所の話。

ああ、もう違う世界にいるんだな。

「俺もオーストラリアに行くよ」
追いつきたい。
ただ、それだけだった。

だからこそ、俺は彼女を縛りたくなかった。

その日、俺は彼女と別れることにした。
鷲のように高く飛んでいけと願いながら。

パソコンの画面に、自分が写っている。
いつもの部屋から、明かりが消えた。

その日も、雨が降っていた。

1B章 現実(小説①)

「学生寮にオリンピックに出てる人もいるの!」
「xxって子がいて、一緒に料理を作ったんだ!」

画面越しの元彼女は髪型が変わっていた。

「・・・ねぇ、何か新しいことはあった?」

「仕事で出張に行ったんだ。」

「・・・それで?」

言葉に詰まった。

電源を切ったパソコンの画面には自分の姿が写っていた。

散らかった部屋は映さないようにしていた。

ーーーーー

「うーん、ちょっと要件と異なっていますね。」

「わかりました。」

暖房の効いた会議室を出て、外の空気を吸った。

自動販売機に小銭を入れる。
「何にしよっかな」

微糖の缶コーヒーのボタンを押した。

「今日も残業か。」
買った缶コーヒーのことは忘れていた。

「やった席空いてる」

椅子が重い体を受け止める。

カバンからイヤホンを取り出した。
昔好きだった曲を流す。

オーストラリアってどんなところなんだろ。

最後のメッセージは1週間前だった。

知らないスーパーマーケットで女性2人が笑っている。

俺はイヤホンを外して、目を閉じた。

1C章 焦燥感(小説①)

ピコーン

スマホを見ると、企業からの広告メールだった。

部屋の片隅で埃を被ったスピーカーが目にとまった。

久しぶりに電源を入れた。

音楽アプリを起動すると、おすすめのプレイリストはどれも恋愛ソングだった。

1番上のプレイリストから音楽を再生する。

最初の一曲目が終わる前にスピーカーの電源を切った。

きっと1年後もこんな生活をしているんだろうか。

ーーーーー
「じゃあ、そろそろ始めるよ」

「いいよ」

そう言ってビデオ通話を始めた。

背景が違うことに気がついた。
「引っ越ししたの?」

「そう!シェアハウスに引っ越したんだ!ルームメイトも面白いんだよ!」

「最近は英語も話せるようになってきてね!昨日も・・・」

俺は元彼女を遮って言った。

「俺も行くよ。オーストラリア。」

「・・・え、でも」
元彼女の声が小さくなった。

「大丈夫だよ」
俺は一つ嘘をついた。

2A章 行動(小説①)

部屋でパソコンの画面を眺めている。

「オーストラリア ビザ」
「オーストラリア 物価」

本気で行けると思うのか。

パソコンを閉じて、部屋の明かりを消した。

スーパーマーケットにはいつもの顔ぶれが並んでいる。

納豆を手に取り、さっき調べていたことを思い出す。

「1536円です。」

「カードで。」

食べ物をバックに詰めていく。

夜空にはキレイな月が見える。

買い物袋を持つ手に力が入った。

行かなかったらきっと一生後悔する。

自宅に戻ると、買い物袋を玄関に放置してパソコンに向かった。

「成田空港からシドニー、そしてメルボルンの片道チケット・・・」

半年後のチケットを買った。

次に、何度も見たオーストラリアの移民局のワーキングホリデービザのページを開いた。

申請ページに必要な情報を入力していく。

お金を支払って申請をした。

10分後にはビザが許可された。

有効期限は1年後。つまり、1年以内に入国しないと二度と使えなくなることを意味した。

オーストラリアにいくと言ったものの、いつに行くのか本当に行くのかは未知数だった。

会社の仕事の関係もあり、半年後に渡豪することに決まった。
ワーキングホリデービザを取って、飛行機も取った。

「やっぱりやめようかな」

何度、そう思ったことか。

でも、行くしかない。いや、行かずに後悔したくない。
やらないで後悔するよりも、やって後悔したほうがましだ。
そう自分に言い聞かせた。

怖かった。すべてを失うことが。
家も仕事も安定も無くなるのだから。

そして、出発の日。
お父さんが駅まで送ってくれた。お茶とお菓子を貰った。
それを食べながら、バスに揺られて外を眺める。

「もうこの景色は見れないんだな」

二度と帰ってこれない気がして涙が出た。

あれから数日後のこと。

オーストラリアに行く決意は揺らいでいた。
それでも、言ったことに責任を持ちたいと思った。

そして俺は退職を決意した。
仕事の日程を調整し、退職の時期を決めていった。

以前からそれとなく伝えていたが、改めて上司に伝えると、
「意思は、硬いのか?」
と優しく確認された。

「もう決まったことなんです」
こう伝えると、上司は微笑んだように「頑張っておいで」と言ってくれた。

こうして俺は後戻りできなくなった。

ビザを申請して、
飛行機のチケットを取り、
必要な手続きを一つずつ終えていく。

その度に、逃げ道が一つずつ塞がれていく気がして、怖くなった。

「やっぱり、やめようかな」

何度も、この言葉が頭をよぎった。
その度に、前に進んだ。

行かない理由はいくらでも思いつく。
でも、行かなかった未来の俺が、背中を押してきた。

やらないで後悔するよりも、やって後悔したほうがましだ。
そう自分に言い聞かせて、なんとか前を向いた。

正直に言うと、怖かった。

家も、仕事も、安定も、日常も全て失うことが。

周りからも「やめとけ」と言われた。俺はこれまで築いてきたものを、自分の意思で手放そうとしている。

何をやっているんだろうか、と何度も思った。

それでも、出発の日は近づいてくる。

今ならキャンセルできる。
ちょっと職歴に傷が付くくらいで済む。

そう思った。

でも、素直に行きたかった。
どうしても、行ってみたかった。

そして、出発の日が来た。

お父さんが駅まで車で送ってくれた。
最後にお茶とお菓子を渡してくれた。

「向こうで食べな」

空港行きのバスに乗り込んで、席に座る。
袋を開けて、お茶を飲み、お菓子をかじる。

窓の外に、見慣れた街並みが流れていく。

何度も通った道。
何度も見た景色。
何も特別ではない、ただの日常。

「もうこの景色は見れないんだな」
ふと、そんなことを思った。

帰ってくるつもりで出るはずなのに、
なぜか、二度と戻ってこれない気がしていた。

2B章 後始末(小説①)

「ちょっと話があります。」

「じゃあ、今日の定時後でいい?」

「はい。よろしくお願いします。」

時計は午後の3時を指していた。

今日のやることは終わった。

外にある自動販売機の前へ向かった。
「今日はやめておこう」
小銭をそのまま財布に戻した。

午後7時頃、上司から呼ばれた。
「ごめん、待たせたね。」

「大丈夫です。」

上司が会議室の扉を閉める。

「それで、話って?」

「仕事を辞めようと思っています。」

「・・・そんな気がしたよ。意思は固いの?」

「もう決めたことなんです。」

「・・・ちなみに理由は?」

「海外に行こうと思っています。」

「そっか、前から話してたよね。行っておいで。頑張ってね。」

「あっ、これ、アプリの設計書の引き継ぎ資料です。」
さっき作った資料を上司に渡した。

「見ておくよ。」

そう言うと上司は両手で受け取った。

ーーーーー

退職の1週間前。

「渡辺さん、データが見れないんですけど。」

「公式ドキュメント通りの実装なんだけど。」

「ドキュメント読んでから質問してもらえるかな?」

後輩の顔を見ないで言い放った。

しばらくしてから後輩の方を見ると、じっと座っていた。

ーーーーー

退職の日。

オフィスにはよくあるカフェのBGMが流れている。

「absolutely – 絶対に」

パソコンの画面に写る英単語を眺めていた。

「渡辺くん、ちょっといい?」

上司から呼ばれて会議室に入った。

「引き継ぎが全然できてないから、有給期間とかに教えてほしいんだけどいい?」

「やることが多いので無理ですね。」

「そっか。でもどうしてもって時は力を貸してもらえるとうれしいよ。忙しいのにありがとうね。」

そう言って上司は会議室を出た。

俺は恩を仇で返した。

あれから数日後のこと。

オーストラリアに行く決意は揺らいでいた。
それでも、言ったことに責任を持ちたいと思った。

そして俺は退職を決意した。
仕事の日程を調整し、退職の時期を決めていった。

以前からそれとなく伝えていたが、改めて上司に伝えると、
「意思は、硬いのか?」
と優しく確認された。

「もう決まったことなんです」
こう伝えると、上司は微笑んだように「頑張っておいで」と言ってくれた。

こうして俺は後戻りできなくなった。

ビザを申請して、
飛行機のチケットを取り、
必要な手続きを一つずつ終えていく。

その度に、逃げ道が一つずつ塞がれていく気がして、怖くなった。

「やっぱり、やめようかな」

何度も、この言葉が頭をよぎった。
その度に、前に進んだ。

行かない理由はいくらでも思いつく。
でも、行かなかった未来の俺が、背中を押してきた。

やらないで後悔するよりも、やって後悔したほうがましだ。
そう自分に言い聞かせて、なんとか前を向いた。

正直に言うと、怖かった。

家も、仕事も、安定も、日常も全て失うことが。

周りからも「やめとけ」と言われた。俺はこれまで築いてきたものを、自分の意思で手放そうとしている。

何をやっているんだろうか、と何度も思った。

それでも、出発の日は近づいてくる。

今ならキャンセルできる。
ちょっと職歴に傷が付くくらいで済む。

そう思った。

でも、素直に行きたかった。
どうしても、行ってみたかった。

そして、出発の日が来た。

お父さんが駅まで車で送ってくれた。
最後にお茶とお菓子を渡してくれた。

「向こうで食べな」

空港行きのバスに乗り込んで、席に座る。
袋を開けて、お茶を飲み、お菓子をかじる。

窓の外に、見慣れた街並みが流れていく。

何度も通った道。
何度も見た景色。
何も特別ではない、ただの日常。

「もうこの景色は見れないんだな」
ふと、そんなことを思った。

帰ってくるつもりで出るはずなのに、
なぜか、二度と戻ってこれない気がしていた。

2C章 出発の日(小説①)

「おはよう」

そう言って家族に挨拶した。

「ごはん作るから待っててね」

そう言って母親がホットサンドを作ってくれた。
ケチャップとチーズの相性がとてもいい。

「ごちそうさま」

スーパーで売っているドリップコーヒーを開けて、お湯を沸かす。
昔から使っているカップにお湯を注ぐ。

テレビのニュースは明日の東京の天気予報。

食器を洗って自室に戻る。
スーツケースに洗ったカップを入れた。

「ばいばい」
喜んでいる飼犬を撫でてそう言った。

「じゃあ行ってくるね」

「・・・気をつけてね」

「うん」

玄関のドアを開けて外に出る。

スーツケースを引く音に混じって足音が響く。

「さようなら」

駅に着いて空港行きのバスを待っていた。

お父さんから電話だ。
「どこにいる?ご飯買ったから渡すよ。」

10分後にお父さんは来た。
「これ。」

そう言って、コンビニで買ったおにぎりとお茶のペットボトルを手渡した。

「ありがとう」

バスが到着した。
「それじゃあ行ってくるよ」

「気をつけてな」

バスに乗り込んで空いている席に座った。
「バスが発車します。お掴まりください。」

手を振っているお父さんの姿が見えなくなった。
俺は強く目を閉じた。

3A章 空港へ(小説①)

バスの揺れは絶えず体に響いた。

何度か通ったことがある道を過ぎる。
ここまでなら電車で来たことがある。

緑のETCと書かれた看板を通り過ぎた。

空港に着いたら何食べようかな。

「ありがとうございます。」
スーツケースを受け取って、自動ドアの前に立つ。
少し経ってからドアが開いた。

人の流れる方に歩くと良い匂いがする。

あ、ラーメンか。
「醤油ラーメン1つ。」

目の前には見たことがあるラーメンが出された。

「いただきます。」
これが最後のラーメンか。

スーツケースを引いて、受付まで移動した。

「では、こちらに荷物を置いてください」
俺のスーツケースは奥に運ばれていった。

「搭乗口はどこですか?」

「あそこの受付でチケットを見せてから荷物検査を受けてください。」

そう言われて、荷物検査の列に並んだ。

「金属類や電子機器はこの箱に入れてください。」
財布や時計を出して、ゲートをくぐった。
音は鳴らなかった。

待合室で日本のお土産のお菓子が売っている。

自動販売機に小銭を入れて、飲み物を買った。
そのお茶はとても濃くて、とても美味しかった。

バスの揺れに身を任せているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。

目を開けると、辺りは真っ暗だった。
窓の外には見慣れない光が点々と並んでいる。

「着いたか」

気がつけば空港だった。

寝ぼけたまま荷物を抱えてバスを降りる。
一歩進むたびに、何かが失われていく感じがした。

持っているのは、片道のチケットとスーツケースだけ。

チェックインを済ませ、搭乗まで待っていた。

飛行機の座席に座る。

エンジンの音と共に、窓の外の景色がゆっくりと遠ざかっていく。
日本の地が、見えなくなった。

半日ほどのフライトだった。

妙に冷静な気持ちで機内食を食べた。
これからの生活のことを考えていたら、そのまま眠っていた。

オーストラリアへ到着して、目を覚ました。

飛行機を降りて、見慣れない英語の案内板を見たとき、
ようやく実感が湧いた。

空港の出口で待っていると、暫くしてから元彼女が現れた。
久しぶりに見る顔は、もう俺の知っている顔じゃなかった。

電車の乗り方や、スーパーでの買い物の仕方、
生活に必要なことを一つずつ教えてもらった。

俺は半歩後ろを歩いていた。
そして、会話はなかった。

ここから先は、独りで生きていかなければならない。
そう直感した。

数日は元彼女の部屋に泊めてもらった。
知らない街で、知っている人がいるということが、
どれほど救いになるのかを初めて知った。

数日後、俺は元彼女の部屋を出た。

スーツケースを引きながら、外に出たとき、
人生で一番の孤独を感じた。

ここからは独りだ。

決して帰れない。
行き先は無い。
友達もいない。
誰も助けてくれない。

足がすくんだ。

これが、俺の旅の始まりだった。

3B章 離陸(小説①)

「E-18、E-18・・・」

小さく独り言を言いながら機内に入った。

見渡すと半分くらいの席が埋まっていた。

俺は席を見つけて着席した。

暗くなった外には人工的な光が広がっていた

〜〜執筆途中〜〜

4章 賑やかな孤独(下書き②)

(下書き)

スーツケースを引きながら、必死にスマホで今夜泊まる場所を探していた。

少し離れたところに安いゲストハウスを見つけた。
全然英語が話せないのに、どうやって予約をするのかと躊躇した。

大丈夫。
死にはしない。

思い切って電話をかけてみた。
カタコトの英語で、電話越にも関わらず身振り手振りで説明した。

なんとか予約に成功した。
今夜から一週間は泊まれるみたいだった。

ゲストハウスまでトラムという路面電車で30分くらいだった。
意味のわからない車内アナウンスが耳に残り、スマホの地図アプリを眺めていた。

ゲストハウスの建物が見えてきた。かすかに音楽が聞こえてくる。
思い切って重い扉を開けた。

受付の前には旅行者らしき人たちが談笑している。
当然のように俺の知らない言葉を交わしている。

受付にはパイナップルが似合いそうなオレンジと水色のストライプシャツを着た男性が楽しそうに話している。

待っていると目が合った。

“How are you?”(調子はどう?)
気さくな男性は話しかけてきた。

受付の人がなぜ調子を聞いてくるのだろうかと思いつつ、絞り出すように答えた。

“I’m Watanabe.”(ワタナベです)

何だかよくわからないことを説明されてから部屋に案内された。

部屋に入ると、二段ベッドがいくつも並んでいる。
知らない人の荷物がベッドの上に置いてある。
持ち主は、どこかに出かけているようだった。

とりあえずご飯を買いにいこうと思い、近くのスーパーマーケットに行った。

見たことのない商品が並んでいる。
食べ慣れたお菓子もない。
そこは俺の知っている”世界”ではなかった。

「あ、いちご……1ドル?!」

なんといちごが一パック100円で売られているのだ。二パックかごに入れた。

「お、醤油もあるね。でも日本産じゃないね。」
あとは調味料や鶏肉などを買った。

夜になると人が集まってきた。
同じ部屋のイギリス人やフランス人と話して、時間を過ごした。

夜ごはんに、キッチンで簡単な日本食を作ってあげたら、「日本料理だ!」と言って喜んでくれた。

数日もすると、自然と会話が増えていった。
昼過ぎに一緒にビーチに行った。

異国の地で、俺は初めて笑った気がした。

でも、俺は彼らとは決定的に違っていた。

彼らは観光で来て、楽しんで、
次の場所へと旅立っていく人たちだった。

俺には次がない。

この街で、生きなければならない。
仕事を見つけて、生活を成り立たせなければならない。

楽しんでいる彼らの姿を見るたびに、
自分の置かれている立場との落差に苦しんだ。

仲良くなっても、数日後には彼らはいなくなる。
また新しい人が来て、また仲良くなって、また別れる。

友達を作っては失ってを繰り返すうちに、
俺は人に疲れていった。

それでも、笑って今日も同じ話をするしかなかった。
「どこから来たの?」

この時間は、楽しいはずだった。
はず、だった。

5章 家族がある孤独(下書き②)

(下書き)

ゲストハウスの生活は、長くは続けられなかった。
宿泊費が高すぎた。

俺は、ホームステイを探し始めた。

いくつか問い合わせをしてみたが、なかなか受け入れてくれるところが見つからなかった。
英語もうまく話せないまま、事前のやり取りもなしに、
わざわざ家に迎え入れたい人は多くはなかったのだと思う。

それでも、ようやく一つだけ受け入れ先が見つかった。

ゲストハウスよりかは、安かった。

一週間、そこに泊まることになった。

ホストファミリーと食卓を囲んで笑い合う。
そんな時間はなかった。

ホストとの会話は必要最低限。
食事もそれぞれのタイミングで、淡々と済ませる。

ビジネスとしてのホームステイだった。
他人でも、家族になれると誤解していた。

現実は、「他人は他人」だった。

ある日、ホストの親戚と孫が家に来た。
俺は、部屋に戻り、ドアを閉めた。

リビングから楽しそうな声が聞こえてくる。

彼らが帰るまで、何時間も息を殺していた。
俺は、家族ではない。
外国人の余所者。

ここは、俺の居場所ではない。
俺は邪魔者だった。

6章 孤独な安心(下書き②)

(下書き)

価格を抑えるため、俺は新しい家を見つけて引っ越した。

そこはシェアハウスで、
1つの戸建てに5人で暮らすことになった。

大きな共有スペースとキッチンがあって、
廊下の奥にそれぞれの個室が並んでいる。

個室で、1人でゆっくり眠れる。
それが、久しぶりで嬉しかった。

「異文化交流!楽しいシェア生活!」
そんなものは、なかった。

派手さは無い。
静かに淡々と、人が暮らしている家だった。

顔を合わせたら、
「今日は仕事どうだった?」と雑談をしたり、
過去の仕事や生活の話をしたりした。

ゲストハウスでは楽しい話をしていたが、もっと静かでひっそりとした会話だった。

自分を取り繕って楽しいフリをしなくてもいい。
日常を日常として扱っていい。

それだけで、安心した。

彼らはこの国で長く生活している人たちだった。
仕事の探し方や、履歴書の書き方、銀行口座のことまで、
一つひとつ教えてくれた。

特別に助けてあげようという雰囲気でもなく、
ただ「知らないなら教えるよ」という、
一人の人間として扱ってくれている距離感だった。

その距離が、ありがたかった。

気を遣わなくていい。
無理に仲良くならなくていい。

俺はこの国に来てから、
初めて「独りで生きていけるかもしれない」と思えた。

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